変革と挑戦
「老舗は、変わりたくないから変える。」
これは、銀座のある老舗メーカーの現当主の言葉です。
この言葉を聞いたとき、たゆまぬ努力こそが価値観を不変にせしめるものだと深く感銘を受けたことを覚えております。同じ価値を提供し続けたいと思うなら、常に努力と変革に取り組むのと同時に、時々に応じて新しいものを取り入れる勇気が必要であるという趣旨なのですが、老舗のイメージが一変するような言葉でした。
例えば、安らぎともてなしの空間を作るホテルや旅館であれば、常に守るべき物と、変革するものを見極めて、安らぎともてなしの空間を作る必要があります。
極端な例えですが、「電気」という新しい発明がされたときは、これまで通りロウソクの灯りにこだわるのか、この新しい文明を取り入れるのかを選択しなければなりません。
電気の光を「無機質なものだから」という理由で拒絶することは簡単です。しかし、彼らにとって守り続けたい価値はロウソクの灯りそのものではなく、安らぎともてなしの空間であるはずです。同じ価値を提供し続けたいから新しいものを否定し従来のやり方を押し通すことがまずありきなのではなく、電気という便利な発明を理解し価値あるものだと判断したのであれば、自分達の価値観で取り入れてアレンジしてみて、シャンデリアに組み込むのか、和の空間の中に取り入れるのか、というように可能性を想像してみること。そのような新しい物を取り入れる柔軟性と勇気を持つことが必要だと言うお話でした。
事実、薪能などの世界でも見られる日本に古くからある間接照明の美しさをデザインに生かし、「電気を取り入れた和」を創作され提案する努力をされたからこそ、創業数百年の旅館や老舗ホテルが現在でも独自の価値観を提供し続けられるのだと思います。
同じ価値観を提供し続けるためには、常に変革する勇気が必要となります。
各国のロイヤルブランドや宮内庁御用達の当主の方々も一様にそういった強い意志をお持ちでした。そういった方々とインターネットという新しい発明に対してどのような価値観で取り入れられるのかというお話を重ね、その結果として「老舗やブランドが挑戦をしていく場」として、このエルトゥークを立ち上げるに至りました。